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真山 仁さん(作家)

ライター時代、苦労は

 生活は大変でしたね。お金もなくてこの時期友人もたくさん失いました。でもおかげでそれまで見えなかったものも見えるようになって。新聞社を辞め、ジャーナリズムからは距離を置こうと思いましたから、仕事のかたわらひたすら小説を書きました。時には一週間で10時間しか寝ないようなこともあったり。

努力が実りついに作家デビューされます

 人によっては小説家になることが目的の方もいるとおもうんですが、私は小説家になってやりたいことがたくさんあって。でもデビューが経済小説だったので、大人の事情でそのレールからなかなか抜けられなかったり。まだまだ世の中に伝えたい、表現したいジャンルがあるので今でも十分とは言えませんが、そこに辿り着けたというのは過程としては現在のところ良かったと思います。

『海は見えるか』について聞かせて下さい

 東日本大震災を書こうと決め、釜石から仙台まで8カ所あまり、現地に頻繁に足を伸ばし、被災地の変化を季節の移ろいと共に見続けました。夜はできるだけ沿岸部のホテルに泊まり、食事は外で――。ひとり黙って呑み、声をかけられるのを待ちます。私は阪神淡路を神戸で被災しているので、「神戸と比べてどう?」と必ず聞かれました。いえ、復興全然進んでませんよねこんなんでいいんですか、なんで進まないんだと思う、いやあなたたちがもっと主張した方がいいと思いますよ――そんな話をして。取材というよりはずっと愚痴を聞いているようなものですが、そこで大事なのは、じゃあ私はどう思ってるんだろうという気持ち。それが本に登場する人物たちの中に少しずつ入ってるんですね。

 作中には小学6年の時の私のような子供がたくさん出てきます。翻弄され右往左往する大人の姿に込めたのは、しっかりしろよ、子供はちゃんとみてるんだ、というメッセージです。子供たちのこの悲鳴のような叫びのようなことを大人がちゃんと受け止められる社会の日常を取り戻してほしい。被災地のことなんて読みたくないという人も読みやすい喜劇よりのタッチにしてあります。是非、触れてみていただければと思います。

まやま じん 1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。中部読売新聞記者、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』でデビュー。07年、テレビドラマ「ハゲタカ」(NHK)が放映され、大反響を呼ぶ。著作に『そして、星の輝く夜がくる』『売国』『雨に泣いてる』『当確師』『海は見えるか』など多数。

(月刊MORGENarchives2016)

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