瀬戸内 寂聴さん(作家・尼僧)

 令和3年11月9日、一人の巨星がこの世を去った。瀬戸内寂聴さん(享年99)は、長く日本の文学界を支え続け、その功績を讃えられて、1997年と2007年には文化功労章、文化勲章をそれぞれ受賞した。本誌に瀬戸内さんにご登場いただいたのは、2001年の10月、始動して間もない時期を応援いただいたかたちだ。作家として、尼僧としてそして人間として……、激しく生き抜いた青春の火花を追悼をこめて「Morgen Archive Selection」に掲載する。

初めて『源氏物語』を読んだのはいつ頃

 13歳、高等女学校に入ってすぐの頃です。与謝野晶子さんの現代語訳で、私は文学少女だったからちゃんと古典と思って読みましたよ。それで読み始めたら非常に面白かったから熱中して読みふけりました。大長編恋愛小説であることは最初からわかりました。

それから何度も繰り返し読まれたとか

 そうそう。与謝野さんので読んで、それからすぐ谷崎潤一郎さん訳が出たので読んで……、もうその頃になると原文にもあたっていました。小説家になってからも、時々、読んでいたんだけど、そのころちょうど円地文子さんがまた源氏物語を訳されたものですから、結局3人の現代語訳を読むことになって。でもやっぱり最後は原文ですよ。出家してからはさらに徹底的に読みました。だけど、一般の人に「原文まで読みなさい」と言っても、難しいし、とても読めませんよね。清少納言の『枕草子』は、文章が短いし、非常にわかりやすいからいいんですけど、『源氏物語』は主語がないうえにセンテンスが長いからとても難しいんですね。

読む時期や役者が読み手に与える影響は

『源氏物語』そのものはひとつですから、こっちが知らずにいてからわからなかったものが、年齢や角度によって次第に深く分かってくるということじゃないかしら。たとえば私自身、出家してから読み通して変わったことがあって、というのも、『源氏物語』に登場する女性の7割は出家しているんですよ。それまでは、「そんなものかな」と思って何気なく読んでいたんだけど、いざ自分が出家して髪を落としたでしょう。そうするとやはりそれは、実体験としてある種のショックなわけですよ。それを踏まえてあらためて『源氏物語』に向かうと、こんなにも出家していったのはなぜだったんだろう……、とか、どういう心境だったのかを考え始めたんです。

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