「野鳥と私たちの暮らし」身近な冬鳥 アトリ
渡来当初にはたえず大群で飛び回り、秋に実ったナナカマドの実やカエデの種子、ブナやコメツガの球果の種子に群がります。飛びながら「キョッ、キョッ、キョッ」とよく鳴くので、その声でアトリが今年も渡って来たことを知ることができます。アトリは、ハクチョウやジョウビタキなどとともに、冬の到来を告げる冬の使者です。
アトリが日本に留まるのは翌年の5月初めまでですが、この間を通してずっと群れで生活しています。渡来当初大群でいた群れも、山が雪に覆われるとともに平地に降りて来て、群れのサイズは次第に小さくなります。
冬から春先には開けた環境に
アトリは、冬から春先にかけては平地に移動し、林縁の林の他、農耕地、川原などの開けた環境でも見られるようになります。私が1970年代に京都でカワラヒワの研究をしていた頃、宇治川の流れに囲まれた小椋干拓地と呼ばれる広い水田地帯で、千羽ほどのアトリが大群となり落穂を食べ、時々舞い上がり移動するのを観察したことがあります。これほどの大群を見たのはこの時だけですが、数百羽のアトリの群れは、今でも河原や農耕地で見ることができます。
生息環境が山地の林から平地の開けた環境に変化するとともに、アトリが食べる餌は米やソバなど地上に落ちた穀類や草の種子に変化します。
かつて、アトリは穀類を食べることから害鳥とされていました。しかし、イネ狩前の水田で米を食べることや、収穫前のソバを食べることはないので、スズメのように農業に害を与える鳥ではありません。