「野鳥と私たちの暮らし」身近な冬鳥 アトリ
前にも紹介したことがあるミヤマホオジロは、奥山で夏に繁殖し、秋になると里に降りてくると考えられ、この名がつけられました。ですが、実際には大陸から海を越えて渡って来ていたのです。
足環による標識で解明された鳥の渡り
鳥の渡りの実態が解明されたのは、鳥に足環を付け、その鳥がどこで確認されるかの調査が実施されてからです。長年にわたる標識調査により、秋にはシベリアやカムチャッカ半島など北で繁殖した多くの鳥が海を越えて日本列島にやって来ることがわかりました。
逆に、日本で繁殖した鳥の一部は秋までに姿を消し、翌年の春にはまた姿を見せます。ツバメなどの夏鳥です。これらの鳥は、海を越えて東南アジア、さらに南のオーストラリアなどに渡って冬を過ごし、春には日本に戻ってくることがわかりました。
最近では、電波を出す発信機を鳥に装着し、その電波を地球を回る気象衛星がキャッチし、繁殖地と越冬地、それらを結ぶ渡りのルートも含め、鳥の渡りの実態がより正確に解明されています。
身近な鳥への関心を
鳥に関心があったら、年間を通し多くの鳥を身近で見ることができます。冬鳥に出会う機会がありましたら、その鳥の繁殖地での生活と海を越えて日本に渡ってくる姿を想像してみてください。私たちと同様に、それぞれの鳥はそれぞれの生活を持っています。この地球上で生きているのは人だけでないことに、改めで気づくことでしょう。
脚注:写真上・下ともに茨城県那珂市在住宮本奈央子氏撮影。
なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。
(モルゲンWEB2024)