「野鳥と私たちの暮らし」春の訪れを告げる身近な鳥 ヒバリ

ヒバリはなぜ減ったのか

 ヒバリは、近年数が減っているといわれています。東京都が実施した鳥類繁殖分布調査の結果を分析した植田ほか(2005)によると、1970年代には307メッシュ中101メッシュでヒバリのさえずり等による生息が確認されましたが、1990年代には28メッシュと急激に減少していました。減少の原因は、この間の畑地面積の急激な減少と麦の栽培から野菜類の栽培という畑地の質的変化によることが分かりました。ヨーロッパでも同様にヒバリが近年減少しています。その原因は、春蒔き小麦から秋蒔き小麦への転換により麦の背丈が高くなり、繁殖に適さない環境になったこと、また農地の大規模化に伴う環境の均一化とされています。

高山で繁殖開始

 ヒバリは、このように日本だけでなく世界各地で数が減少していますが、最近ヒバリの新たな環境への進出が日本で起きています。高山への進出です。私は乗鞍岳で長年ライチョウの調査をしていますが、10年ほど前からヒバリのさえずりが乗鞍岳の高山帯で聞かれるようになりました。また、その後北アルプスの白馬岳にライチョウ調査に訪れた時にも、複数の雄が山頂付近でさえずっているのを目撃しました。ヒバリはそれまで平地の鳥でしたから、高山帯への進出には大変驚きました。現在では、本州中部の他の高山や北海道の大雪山でもヒバリのさえずりと繁殖が観察されています。

 ではなぜ、最近ヒバリは高山に進出したのでしょうか。平地を追われたので、よく似た環境のある高山に進出したのかもしれません。また、それには最近の温暖化が関係しているのかもしれません。この理由の解明には、さらに詳しい調査が必要です。皆さんの住んでいる近くにまだ田園風景が残っている場所がありましたら、3月の晴れた温かい日に訪れてみてください。冬の寒さに耐えた後、高らかに春の訪れを告げるヒバリのさえずりに出会うことができるかもしれません。

脚注:写真上・下は、茨城県那珂市在住宮本奈央子氏撮影。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB2024)

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