「野鳥と私たちの暮らし」都市部に進出した小型の猛禽 チョウゲンボウ
この変化の理由は、最近は人がこの鳥にとって以前のように危険な存在でなくなったためです。私が子供の頃の60年以上前には、野鳥を捕えて食べることが広く行われていました。それが狩猟法の改正によりほとんどの野鳥が捕獲禁止になり、人が野鳥に害を直接及ぼすことはなくなりました。その結果として、チョウゲンボウが生息できる環境は人の生活圏にも広がり、生息できる環境が一挙に広がりました。
さらにその結果として、かつて希少な鳥であったこの鳥は現在全国的に数の増加に転じています。
高山に進出しライチョウのヒナを捕食
人の生活圏に進出し数を増やしたチョウゲンボウは、最近ではライチョウの棲む高山でもよく見かけるようになり、ライチョウの雛を捕食しているのが各地の山岳で確認されています。平地で数を増やしたこの鳥が高山に棲むライチョウの新たな捕食者になったのです。
この10年間、ライチョウの保護のため乗鞍岳や南アルプスの北岳で孵化したばかりのライチョウの雛を母親と共にケージに収容し、人の手で梅雨の悪天候と捕食者から守ってやるケージ保護を実施しています。その折、昼間には家族をケージから出し、人が付き添いながら家族をケージの外で自由に生活させているのですが、晴れた日には下界からやってくるチョウゲンボウを人が手をたたいて追い払うことをしています。
かつて貴重種であったチョウゲンボウは数が増えすぎた結果、現在では貴重な日本の高山の自然のバランスを崩す存在となっています。自然界では他の生物とのバランスで個々の生物の生活が成り立っており、特定の生物が増えすぎると自然界のバランスを崩す良い例と言えるでしょう。
なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。
(モルゲンWEB2024)