「清々しき人々」日本の生物境界を発見した商人 トーマス・ブラキストン

 輸入した武器を幕府や明治政府に売却して莫大な利益を取得していたのは商売の一環としても、経営が困難になったブラキストン・マル商会が日本政府の許可なく証券を発行しようとした事件がありました。日本政府が紙幣の印刷を依頼したドイツの印刷会社にブラキストン・マル商会も印刷を依頼していたため発覚した事件です。これは政府がイギリス公使に談判して発行停止になりましたが、日本を植民地扱いしていた証拠です。

北海道との因縁

 日本での仕事が停滞しはじめたことを契機に、ブラキストンは一八八〇年代後半にイギリスに帰国、さらにアメリカに移動してアメリカ女性と結婚して平和な生活をしていましたが、六〇歳になった一八九一(明治二四)年にアメリカで死亡しています。この結婚相手は北海道に関係のあるアメリカの女性でした。アメリカの獣医師であったエドウィン・ダンという人物が一八七三年に日本政府の開拓使に雇用されて来日しています。  一八七五年に函館近郊の牧場で牡馬の去勢技術を指導し、翌年には札幌で羊、馬、牛、豚の飼育や乳製品や肉製品の加工技術も指導していました。一八八二年に開拓使が廃止になり一旦帰国しますが、日本での業績が評価され、翌年、アメリカ公使館二等書記官として再度来日し、やがてアメリカ公使となりますが、その姉がブラキストンの夫人だったのです。明治時代初期の世界規模での人間の交流を象徴するような挿話です。

つきお よしお 1942年名古屋生まれ。1965年東京大学部工学部卒業。工学博士。名古屋大学教授、東京大学教授などを経て東京大学名誉教授。2002─03年総務省総務審議官。これまでコンピュータ・グラフィックス、人工知能、仮想現実、メディア政策などを研究。全国各地でカヌーとクロスカントリーをしながら、知床半島塾、羊蹄山麓塾、釧路湿原塾、白馬仰山塾、宮川清流塾、瀬戸内海塾などを主催し、地域の有志とともに環境保護や地域計画に取り組む。主要著書に『日本 百年の転換戦略』(講談社)、『縮小文明の展望』(東京大学出版会)、『地球共生』(講談社)、『地球の救い方』、『水の話』(遊行社)、『100年先を読む』(モラロジー研究所)、『先住民族の叡智』(遊行社)、『誰も言わなかった!本当は怖いビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)、『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)、『幸福実感社会への転進』(モラロジー研究所)、『転換日本 地域創成の展望』(東京大学出版会)、最新刊「AIに使われる人 AIを使いこなす人」(モラロジー道徳教育財団)など。モルゲンWEBの連載「清々しき人々」とパーセー誌の連載「凜々たる人生 ─ 志を貫いた先人の姿 ─」からの再編集版として、『清々しき人々』、『凛凛たる人生』、『爽快なる人生』(遊行社)など。

(モルゲンWEB2024)

関連記事一覧