「野鳥と私たちの暮らし」砂礫地に営巣する コチドリ

雛を守るための擬傷行動

 雛は、親鳥が交代で24日間卵を温めた後に孵化します。孵化後雛はすぐに歩け、餌も自分でとれるようになります。雌親に連れられて巣から離れた雛は、以後再び巣に戻ることはありません。親鳥は、孵化した雛を一ヶ月間ほど守りながら育てます。この頃は親鳥にとって、少しも気を抜けない時期です。千曲川には、卵や雛を狙う、カラスやトビ、イタチなどの様々な捕食者がいるからです。これらの捕食者に見つかってしまったら最後、親鳥は卵や雛を守ることはできません。信州大学で学生の時にコチドリの研究をした阿山郁子さんは、コチドリが雛を守る行動を観察し、次のように書いています。

 親鳥は、カラスなど捕食者の気配を感じると、卵や雛から素早く離れ、「私は繁殖などしていません」とばかりに、餌をついばむふりをします。うまい表現だと思います。それでも対応できない時に、親鳥が取る行動が擬傷行動です。捕食者の前で羽をばたばたさせて傷ついたふりをし、注意を自分に引きつけ、雛のいる場所から補足者を遠ざける行動です。私も、調査中に雛がいることを知らずに近づいてしまい、コチドリの擬傷行動を調査中に何度も経験しました。雛もまた、小石そっくりな姿をした保護色です。

なかむら ひろし 1947年長野生まれ。京都大学大学院博士課程修了。理学博士。信州大学教育学部助手、助教授を経て1992年より教授。専門は鳥類生態学。主な研究はカッコウの生態と進化に関する研究、ライチョウの生態に関する研究など。日本鳥学会元会長。2012年に信州大学を退職。名誉教授。現在は一般財団法人「中村浩志国際鳥類研究所」代表理事。著書に『ライチョウを絶滅から守る!』など。

(モルゲンWEB2024)

関連記事一覧