瀬戸内 寂聴さん(作家・尼僧)
世界ではそれほど『源氏物語』は広がりを
全世界ほとんどの地域で翻訳され読まれています。アーサー・ウェーリーの英訳を基本に、その後のサイデンステッカーと繋がっていますね。1951年に湾岸戦争のあとのイラクに戦争犠牲者救済カンパと支援物資を持って訪れましたけど、道中、バスの中で現地の学生たちから「なんで日本の尼さんは頭を剃るのか。『源氏物語』の中の女性たちはみんな長い髪じゃないか。あんなに髪を大事にしたのに」と言われましたよ。
『源氏物語』現代語訳版に託した思いは
与謝野さん、谷崎さん、円地さん、みなそれぞれに名訳です。最後の円地さんの訳が完成したのが私が出家した年ですから、もう28年になりますね。その間に日本の教育は非常に低下しましたから、もう今の学生には円地さんの現代語訳さえ読めなくなっている。日本の国民すべてに読んで欲しいものなのに、第一線のインテリすら読んでいないのが現状です。で、それは結局、難しいからなわけでしょう。ですから私は、誰でも読めるようにやさしく訳しました。幸いにも大ブームを引き起こすことになりましたけど、若い人にはもっとこの大長篇恋愛小説の素晴らしさを知っていただきたいですね。そして、それが千年前に書かれたものだということに思いを馳せてもらえたらと思っています。
せとうち じゃくちょう 1922年徳島市生まれ。東京女子大学卒。『かの子繚乱』『美は乱調にあり』『花に問え』『白道』『現代語訳 源氏物語』など著書多数。73年、51歳で出家。
(月刊MORGENarchive2001)