• 十代の地図帳
  • 各界の著名人の十代の道程にその道に入る心構えやヒントを見る

大石 佳乃さん(報道写真家)

積み重ねから導き出されたものだったと

 私はもともと写真で人々の暮らしを写したかったんです。それはつまり言語の数ほどある、民族の生活や文化の多様性を被写体とすることでした。多様な文化のそれぞれをクローズアップすることで、人間のたくましさや誇りを表現したかったんです。ところがそういったものを破壊するのが戦争であり、恐怖政治だったんですね。「いつか被写体としたい本来の目的を撮る為に、今はこれを撮るぞ!」という想いがあったんですよ。

海外の子供たちを被写体とされるとき、どのような問題意識を

 現実に社会を動かしているのは常に大人なんですよ。そして、どのような場所でも戦争が起こると必ず弱い順に被害を受けていくんですね。これはどこの国でも共通している現状だと思います。だから私が子供を撮り続けることはつまり、大人に拘っている、ということなんですよ。子供の瞳に映された世界の形を発信することで、逆説的に大人に訴えかけているんです。子供の笑顔も泣き顔も、全てが世界を反映しているんですね。ただ、もちろん子供は簡単には心の内側を見せてはくれません。コミュニケーションをとり続け、奇跡的に見せてくれる1枚を撮り続けて発信しています。彼らの笑顔や怒りの表情を目にした大人たちが自らを投影させて、問題意識を持ってくれることを望んでひたすらにシャッターをきっているんですよ。

そのような中、昨年3.11がありました

 あのような事件があったせいかわからないのですが、日本人は凄く内向きになっている気がします。もう自分たちで精一杯だから外国のことは知らない!ってね。もしそうなら残念ですね。それに国内に目を向けてもやはり弱者、子供が被害者になっている側面が強いと思います。原発の問題に顕著ですが、幼い或いは若い世代に特に影響のある放射性物質などの問題に大人はあいも変わらず無責任なんですね。今、私は月に1度は福島に赴いて写真を撮りながら支援活動を行っていますが、弱き者がより被害者になるこの負の構図をなんとか大人みんなで覆すことを常に念頭におきながら活動しています。弱きにしろ強きにしろ、等しく皆さんが問題意識を共有し、子供をこの国の未来を守ることを優先順位の1番上に置いて生きてくださることを切に願っています。

おおいし よしの 1944年東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。戦争、内乱後の市民、子どもたちに目をむけたドキュメンタリー作、ベトナム戦争、カンボジアの虐殺、スーダンのダルフの難民、原爆の広島の人々などを取材。人々の生活が戦争や紛争で妨げられて命を奪われている惨状を世界に伝えている。 主な作品は1982年「無告の民」で日本写真家協会年度賞、2001年「ベトナム凛と」で土門拳賞、また1994年には芸術選奨新人賞、2007年紫綬褒章を授与。現在は日本大学芸術学部客員教授でもある。

(月刊MORGENarchive2012)

関連記事一覧