羽田 圭介さん(小説家)
小説家・羽田圭介さん――2015年のお笑い芸人・又吉直樹さんとの芥川賞W受賞は今も語り草だが、受賞後も受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』をプリントしたTシャツを着て、自ら宣伝しつつ番組に出るなど、その一風変わったキャラクターが人気を博した。その後は順調にキャリアを重ね、現在も意欲的に作品作りに取り組むがその核は何か――、俊英の十代の地図を開いた。
どんな少年時代を
特に活発というか、なんにでも真剣という子供ではなかったですね。中学受験をして大学の付属校に入ったので、よほど悪さをするとか、極端に成績が悪いというのでなければ大学進学は保障されていました。ですから、勉強もそれほど真剣には取り組んでいなくて。部活動は軟式テニス部でしたが、御茶ノ水にあった学校は校庭が狭く、テニスコートも2面しかないこじんまりしたもの。それをいくつかの部活で共有するので、練習できるのは、水曜と土曜日だけ。皇居の周りをランニングする毎日は面白いものでもなく、部活にもあまり夢中になれませんでした。
小さい頃の読書体験は
児童文学には興味はありませんでした。あれは子どもが読むものでしょ、なんて斜に構えて。自分も子どもなのにね(笑い)。小学5年の時に、親から中学受験を勧められて勉強を始めたんです。それで当時、埼玉の一軒家の2階にあった自室に篭もり、勉強机に向いますが、やっぱり勉強なんてしたくないわけですよ。そこで、机に広げた参考書に『ぽっぽや』『少年H』など流行り小説を重ね、親の目を盗んでは読む。母の足音が聞こえるとすぐに隠して参考書に向かう。勉強するぐらいなら本を読むほうがまし――割と消極的な理由が読書の始まりでした。
中学以降はどんな読書を
埼玉の家から東京の学校に通うことになり、なにしろ通学時間が長いんです。毎日たっぷり往復で2時間の暇をどう潰そう、じゃあ本でも読もうかと。小学校を終えるころには読むスピードも速くなり、普通の本屋で買うのでは追いつかなくなっていました。そこで専ら古本屋の100円コーナーを頼ります。その頃は少し背伸びしたい気持ちもあって『白鯨』『罪と罰』『春の嵐』……、日本や世界の古典小説を読んでいました。