『炎上案件 明治/大正 ドロドロ文豪史』
山口 謠司/著
集英社インターナショナル/刊
本体1,600円(税別)
無数のエピソードが、自分と文学作品を近づける
文学の面白さ、というものは作品それ自体の面白さというものももちろんあるけれど、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、その作品がどんな人物によって生み出されたのかという部分によるところが大きい。
本書は近代日本文学の巨人たちの知られざる姿をスキャンダラスにあぶり出す。思い返せば文学部の一学生であったころ、この作品の作者がどんな人物であったか、どのような経緯で書かれることになったかなどについて(その多くは本書と同様スキャンダラスなものであったが)脱線気味に、そして余談的に聞かされた経験は少なくない。それらの多くは残念ながら忘れてしまったが、作者と自分を、そして作品と自分を近づけてくれたのは間違いなく、それら無数のエピソードの力だった。
現在、学校現場では実用的な文章の読解が多く求められる時代となり、本書が取り上げる文豪たちと中高生の距離はますます広がるばかりだ。そんなとき、もし本書のように生き生きと作者の姿を伝えることができたら。出自を巡る三島のコンプレックスについて、白秋の逃避行について(それらが多少ショックキングな要素を持っていたとしても)もう一度、現代の中高生と近代文学の距離を縮めること繋がるのではないか。文学を愛する中高生の諸君、とりわけ教科書に飽き足らず、もっと刺激的で、しかし本質的な何かを掴み取りたいと願っている諸君はこの本を手に取ってみることを勧める。たとえそれが劇薬であったとしても、本書の項目を読み進めるうちに、諸君の文学的な世界は大きく広がってゆくはずだ。
(評・旭川藤星高等学校教諭・司書教諭 吉田 綾太)
(月刊MORGENarchive2021)