『絵本 こどもに伝える認知症シリーズ3 一本の線を引くと』
藤川 幸之助/さく 寺田 智恵/え
クリエイツかもがわ/刊
本体1800円(税別)
差別や偏見は無理解からおこること
小学三年生のぼくは、「グオーグオー」と大声を出すかすみちゃんのおばあちゃんを「怪獣!怪獣!」とはやし立ててしまいます。あとでお母さんから認知症の事を聞き、脳の病気であることを知ります。
翌日おばあちゃんに再会すると、ぼくを見つめて「よし男、もう帰ろうか」とやさしく言いました。ぼくのことをかすみちゃんのお父さんとまちがっていたのでした。
数日後、おばあちゃんがいなくなった時、ぼくは「あそこ」にいるのではと考え探しに行きます。
一本の線を引くと、場所が二つに分かれて、向こう側は自分と関係のない別の世界だと思う事があります。でもかすみちゃんのおばあちゃんに出会ったことで、ぼくの中の一本の線が消えていきます。
巻末にある「認知症の謎新聞」も見逃せません。認知症のなぞ、タイムマシンで昔にもどるなぞ、同じことを何度も聞いてくるなぞの解決記事には、思わず「なるほど!」と感心しました。
作者の藤川氏が小学校の教師だった経験や母親の介護を体験された事がこの作品に生かされているのでしょう。
この本は、「絵本こどもに伝える認知症シリーズ3」として出版されていますが、大人たちにも一本の線を引く事で起きる差別や、無知であるためにしてしまう無理解がある事に気づかせてくれます。新型コロナウイルス禍においても偏見や差別が起きています。
「一本の線を消して、人と向き合えるように」そんな願いを込めて手渡したい一冊です。
(評・袖ヶ浦市立昭和小学校学校司書 和田 幸子)
(月刊MORGENarchive2021)