『霧中の読書』

荒川洋治/著

みすず書房/刊

本体2,700円(税別)

本のすばらしさを生徒に伝える努力を続けよう

 年に数回、本紙に書評を書かせてもらうようになって、早いもので10年が経とうとしている。「一人でもこの作品を手に取ってくれる人が増えるように」「手に取らないまでも、この作品の存在を頭の片隅にでもおいてもらいたい」という気持ちで常に書いてきたが、発行されて読み返すと作品の魅力の半分も伝えられていないようでがっかりすることが多い。何回書いても、特にあらすじの紹介と自分の感想の配分が難しいのだ。そして、導入。読者の興味を引きつつ、自然と作品に結びつく話題を選べるかが勝負なのだろう。

 本作は、現代詩作家で随筆家としても知られる著者のエッセイ集だが、まさに書評のお手本というべき作品だ。

 書評の対象は実に多彩で、詩集やいわゆる文豪の作品はもちろんのこと、外国文学や近年の小説、ノンフィクションや童話、国語辞典まである。取り上げられた作品は未読のものが圧倒的に多かったが、気になってすぐに学校の図書館へ何冊か借りに行ってしまった。たとえば岩波少年文庫の『ぬけ穴の首-西鶴の諸国ばなし』。専攻が江戸文学だったこともあり、子ども向けと侮って手に取っていなかったが、その不明を恥じた。著者のことばを引用する。「作品のいのちを伝えたいという強い情熱と深い愛情があるからこそ、このような躍動感にあふれた著作が生まれるのだろう。子どものための本をつくるとき、おとなはとても真剣だ。少しの努力も惜しまない。それはこうした読物が、文章や文章がつくる世界への大切な入口になるからだ。」近年はやや諦め気味だったが、やはり本の素晴らしさを生徒に伝える努力を続けねばと思わせてくれた珠玉の書評集である。

(評・共立女子中学高等学校国語科・金井 圭太郎)

(月刊MORGENarchive2019)

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