『風の交響楽(シンフォニー)』

光原 百合/著 藤城 清治/影絵

女子パウロ会/刊

定価1,300円(税込)

季節ごとに物語の扉詩は賛美のように

 本書は、文章が美しい物語です。四季折々の4篇の詩と17の物語がおさめられています。

 誰もが心惹かれる美しい藤城清治さんの表紙絵は手に取るのをためらわせません。物語の中では影絵になっていますが、それぞれの場面で物語にふさわしい説得力をもって描かれているのも魅力です。

 子どもに読んで聞かせても、大人が読んでも心に残る本だと思います。

 季節ごとに物語の扉にある詩は、教会に行ったことのない人でも初めて聞く賛美のように心を優しくします。そして物語の階段を降りるように誘います。所どころに魔物がいたり、傲慢な犬があらわれたりして苦笑も漏れます。

 作者はどのような場面でも〈静謐〉というBGMを小さく流し、読者に大切なものや価値観の見直しを迫るかもしれません。

 読者は美しく優しい言葉のしらべに浸りながらも、物語の知恵とさとしに自分自身の心の在りようを振り返るのです。そして癒されていくのを感じることでしょう。

 物語全体に吹き渡る風は時にはささやきであり、驚きであり、強い風であり読者を立ち止まらせたりもするのです。それでも心に低く流れる〈静謐〉というBGMが、ひたひたと胸に迫って心を洗ってくれるのでした。

 終章『風の声』では星の光を宿す水が地中から湧き上がっては、水晶よりも澄んで空へ昇っていくさまが描かれています。ここで読者は降りてきた心の階段を一気に駆け上がるのです。それも水晶のように澄んで浄化された心で!

(評・麗澤高等学校 司書教諭 柳田 久美子)

(月刊MORGEN archives2019)

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