『黒猫と歩む 白日のラビリンス』

森 昌磨/著

早川書房/刊

本体800円(税別)

現代アートがテーマ、美を通じて描き出されるものは?

 本書は、美学がテーマのミステリー短編集だ。「黒猫」という渾名を持つ若き大学教授とその付き人「私」の二人が日常に潜む謎をすくいあげ、解き明かしていく。第八巻となる本作では現代アートがテーマになっている。

 現代アートと聞いて、「どうせ難しい」「芸術家にしか分からない」――そう思う人も多いかもしれない。でも、これなら? 覆面アーティストの作品が注目されたり、芸術展への脅迫事件が起きたり。ニュースでこのような話題を見て、渦巻く批判や正論にモヤッとしたことはないだろうか。考えてみれば、様々な立場があるのは「答え」がないから。心に問いかけて、零れ落ちていくばかりの「手応え」をかき集めていくしかない。

 私は、美を通じて描き出されるものは結局のところ「人間」なのだと感じた。例えば、たった一枚の絵を見て涙を流すこと。誰の心の中にも潜んでいて、ふっとある瞬間に顔を出す感情だ。私たちはなぜ美しいものを追いかけ、言葉に言い表せない感情を表現し続けるのか。どんなときも、謎の根底にあるのは人が誰かを想う気持ちだ。白日のもとに晒される真実は、ときに美しく、そして哀しい。けれど、『どんなに明日に迷っても、ふたりならきっと歩んでいける(帯より)』。「黒猫」と「私」は互いを支え合いながら謎に向き合い、成長していく。

 日常のすぐ隣には、幻想が扉を開いている。価値観が多様で境界が曖昧な時代。あなたはどこに向かうのかと、この本は真っ直ぐに問いかけてくる。今だからこそおすすめしたい一冊だ。

(評・田園調布学園中等部3年 田口 瑛美莉)

(月刊MORGENarchive2021)

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