『くらもち花伝 メガネさんのひとりごと』

くらもち ふさこ/著

集英社インターナショナル/刊

定価1,400円(税別)

胸をときめかせながらページをめくった名作たちの秘密

 漫画を含む日本のポップカルチャーは、日本国内のみならず、海外においても若い世代を中心に人気を集めている。漫画を読むうえで、内容を理解するための細かい説明よりも、登場人物の感情や関係性の変化の方が遥かに重要視されている。言ってしまえばむしろ『説明してはいけない』ことが、漫画が国境を越えて幅広い年齢層の人に好まれる理由ではないのだろうか。しかし、人々の心を揺らしてきた漫画だからこそ、その背景に作者のどんな意図が潜んでいるか想像してしまうこともある。

 現代では、多くの漫画家が活躍をしている。なかでも、1972年に『メガネちゃんのひとりごと』でデビューしたくらもちふさこ氏は、その後も心温まる名作を多数発表し、常に一級の少女漫画を描き続けてきた。

『くらもち花伝』は、今や日本を代表する漫画家が愚直に進んだ少女漫画道の創作・表現の秘密を自身の言葉で語っている。作品の一場面を引用しながら、自身の幼少期、学生時代、デビュー、初の連載、病気など、様々な経験と重ね合わせ、作品との関係性について言及する秘伝的な要素が強いと言える。登場人物の設定や著者が作品に込める思いは、ファンだけでなく漫画家を目指す人にとっても興味深く、心に響くものだろう。

 特に『漫画を描く漫画家自身がキャラクターになりきる』という、著者の根底にある思いは、人々を魅了する漫画創造において重要な鍵となるのではないだろうか。

(評・浦和学院高等学校教諭 川畑 紀絵)

(月刊MORGEN archives2019)

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