『インスピレーションは波間から 自然の教えを知る、シーカヤック地球紀行』

平田 毅/著

めるくまーる/刊

本体1,800円(税別)

自分と自然の関係に新たな観点が開拓される

 ―揺れ動く波間に人間はリズムを見出し、それと一体化することは果たして可能か―

 今これを記している私自身は、この問いについてはかなり困難で非現実的なことであると考えている。ある種のスピリチュアルな、霊的な事柄であるように捉えてしまうからだ。しかし、本書における著者はその一体化を目指してただただパドルを引っ提げ、カヤックを「履いた」。

 著者は本書の中だけでも世界の様々な島国周辺の海上でカヤックを「履いて」いく。そこに揺れる波の様子は場所によって全く違う。強さも、流れてくる方角も、運んでくる潮風の匂いも。その海ごとに著者は波の様子を理解し一体化していく。旅の中で出会う民族の人々や生物達との出会いや別れを通し、自分も生態系という巨大なパズルの中のピースの一つであるということに段々と気付いていく。

 本書に於いては、その考えに辿り着いていくまでの様子が著者の視点で述べられており、自分も旅路を共にしているかのような感覚になり、私はいつの間にか時間を忘れて読み込んでいる自分に気付いた。また、本書の中に散りばめられた、訪れた海それぞれに対する著者の独特な分析や表現を読者にも楽しみにして頂きたい。カヤックを「履く」というのもその内の一つである。

 私も含めた世界中の多くの人々に対して、自分と自然の関係についての新たな観点を開拓してくれる一冊となっている。本書を読んだ後には読者の自然観はその開拓を完了され、新たな自然観が芽吹いてくることだろう。

(評・上智大学法学部地球環境法学科2年 川崎 快人)

(月刊MORGENarchives2020)

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