『シュトルム ショートセレクション みずうみ』

テオドール・シュトルム/著 酒寄 進一/訳 ヨシタケシンスケ/絵
理論社/刊
本体1,300円(税別)

みずみずしい美しさに満ちた四編

 かわいい本です。教室で、だれかの机のうえに置いてあったなら、思わず手にとってみたくなるような、美しい装幀の一冊です。おもて表紙は『みずうみ』、うら表紙は『雨の精トルーデ』。ヨシタケシンスケさんの描いた絵に、まず惹きつけられます。

 もとより、中身のショートも、みずみずしい美しさに満ちています。抒情的で、初々しくて、掛け値なしにひとのこころは純粋だと信じたくなるような四編です。 

『みずうみ』と『人形使いのポーレ』は、回想の物語。ひとつは淡い恋の喪失。ひとつは奇跡的な恋の成就。この二編はショートながら、長編の味わい『みずうみ』は、作者の初期の代表作。自身の失恋の体験が、色濃く反映されているといわれています。夏の夜の月明かりの下、湖のなかに咲く白いスイレンの花は、恋しいひとの象徴でしょうか。間近で見たくなり、湖のなかに入っていきますが、スイレンとの距離はいっこうに縮まりません。ようやく近づくことができても、茎が手足に絡みつきます。結局、スイレンに触れずじまいで、岸に泳ぎ戻ることになります。

『雨の精トルーデ』と『人形使いのポーレ』は、読み終わったあと、こころがぽかぽかと温かくなってくるはずです。
『リンゴが熟したとき』は、かわいいりんご泥棒の話。「世界ショートセレクション」シリーズの一冊。読んでみてください。

(評・横浜保育福祉専門学校非常勤講師 三上 晴夫)

(月刊MORGENarchive2020)

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