『恭子と汗をかきながら 重い障害の娘あなたの存在が私たちの豊かさに』
下郡山 和子/著
ぶどう社/刊
本体1,600円(税別)
道なき道を切り拓いた母親の闘い
出口の見えないコロナ渦の閉塞感の中、開催を待たれるオリンピック・パラリンピック。障害を持つアスリートもメディアに登場し、障害の有無にかかわらず誰もがスポーツを楽しめる社会への取り組みは共感を呼んでいます。しかし五十数年前、障害者の人権は認められておらず、学校へ通うこともできなかった現実を本書を読んで初めて知る人もいることでしょう。これは重い障害を持った我が子とともに、道なき道を切り拓いていった母親の闘いの物語。娘を背負いながら一歩ずつ、あきらめることなく行政を動かしていった活動の記録です。
著者の長女恭子さんは生後間もなく脳にダメージを受け重傷心身障害児と診断されます。片時も目を離せない介護、家事、車いすなどなく背負っての通院…しかし当時の医療現場への怒りや、不幸を嘆く言葉は全くありません。今できることは何かと考えることが一番で、前だけを見つめて進むのみ。ありのままを受け入れ、活動しながら学び、周りの人を動かしていく行動力には驚かされます。まずは知ってもらうことが大切だと気づけば予算をやりくりして便りを欠かさず発信し続けます。その姿に共感しボランティアや福祉の仕事を選ぶ若者、同じ目標を持つ仲間の輪が全国へと拡がっていきました。
今、貧しい人や障害を持つ人が生き難い格差社会へと戻りつつあるのではという危機感を著者は抱いています。障害者への根強い差別はなくなったわけではありません。この本は次に続く人たちへ向けた、未来への希望を託すメッセージと言えるでしょう。
(評・袖ヶ浦市立昭和中学校学校司書 松井 恭子)
(月刊MORGENarchive2020)