
『根に帰る落葉は』
南木 佳士/著
田畑書店/刊
本体1,300円(税別)
人や病が死に向き合いながら生きる姿描く
今、私たちは毎日のニュースで新型コロナウィルスの感染者数と死者数とを見ながら、感じている差はあれ、死についての怯えがある。その怯えのただ中にいてウィルスとたたかっているのは医師や看護師である。
このエッセイ集の著者は信州の地域医療の現場で働きながら小説を書いてきた医師である。患者の死に日々向き合い、また小説家との両立でパニック障害やうつ病を長く患いながら小説を書いてきた。
医師と小説家とを両立させた人といえば、国語の教科書にある『舞姫』を書いた森鴎外がいる。軍医のトップという仕事をしながら『最後の一句』や『高瀬舟』などで権力批判も書き続けた鴎外は強い人であったと思う。
この本の著者の南木さんは強い人ではなく、逆に自分自身が精神を病みながら、人が病や死に向き合いながら生きる姿を描いてきた。その著者の生活や人生観を知ることのできる本である。
芥川龍之介について書いた文章では、芥川の胃痛の原因は「ピロリ感染胃炎と思われ」とか、文学研究で論争もされてきた芥川の「ぼんやりとした不安」については「禁煙し、きちんと散歩すれば解消されたのではないか」と述べていて、医師らしい芥川論だと驚いた。
著者の小説には信州の山を登る話が多く、私は高校時代の女子同級生から卒業して三〇数年後に突然誘われて浅間山に上る『草すべり』という小説が好きだが、著者の作品である『阿弥陀堂だより』、そして現在上映中の『山中静夫氏の尊厳死』などが映画化されている。
(評・東京都立大学特任教授 宮下 与兵衛)
(月刊MORGENarchives2020)