『許そう。』

葉 祥明/著
日本標準/刊
本体1,400円(税別)

平和な世界へ

 私はキリスト教系の高校に勤務するが、キリスト教では、「許す」(赦す)は大きなテーマだ。
聖書には、「兄弟が罪を犯したなら、七の七十倍まで赦せ。」とある。
また、罪人に投石せよとの命について尋ねられたイエスは、「罪を犯した事のない者が、まず、石を投げよ。」と答え、年長者から順に立ち去ったとある。

 葉祥明さんの詩集『許そう。』は、なぜ許す事が必要になるのか、その根本を明らかにし、許しの過程にまで迫る。

―まず、怒りがあった。 怒りが憎しみや恨みになった。
 相手を許せないのは 自分の中に怒りがあるから。―

 それでも、葉さんは綴る。

―許そう。―
―許しがあれば…
 ほほ笑みが、 喜びが帰ってくる。
 許しは愛だ。―
前掲の聖書の物語は、葉さんのこの言葉に通じる。
―最も苦しんだあなた以外に 相手を許せる者はいない。―

 許さない事は、相手の罪を主張して裁く事である。罪人に対し、罪を犯した事のない人が投石せよというイエスの言葉に、年長者から去って行ったのは、生きる事は罪を犯し続ける事でもあるからだ。そんな私達には、「七の七十倍まで」…無限に許す事が求められている。難しい事だけれども。

 許すとは愛する事であり、それが怒りや憎しみのない平和へとつながる。それは、葉さんが『地雷ではなく花をください』で淡い色と優しい空気のようなタッチで表現した世界そのものだ。

(評・新潟県敬和学園高等学校図書館司書 田村 寛子)

(月刊MORGENarchive2019)

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