『いじめているきみへ』
春名 風花/ぶん みきぐち/え
朝日新聞出版/刊
本体1,200円(税別)
この椅子に座るのは誰ですか
表紙を開くと、学校で使われているパイプ椅子が、一つ描かれています。多くの子ども達が坐った椅子のようです。寂しげに、長年使われた椅子は待っているように思われます。坐る人を。
この本は絵本です。絵と言葉が創り出す世界。優しい風。まるで祈りのようです。「いじめ」に対する祈りです。子ども達だけが「いじめ」をするわけではないことを知っている、かなしい人間への祈りです。
大人になっても、老人になっても、他人を憎んだり妬んだり、恨んだり、嫌いになったりすることがあります。だから独りになって、この椅子に座ってほしいのです。全ての関係性を捨て、深い息をしてみましょう。自分がこの世に誕生した瞬間を思い出しながら。
あなたの誕生をうれしく思い、命をかけて守ろうとした両親の鼓動は聞こえますか。小さな命が産みだした「しあわせ」の温みを感じますか。あなたが初めて歩き、笑い、泣いた日がよみがえりますか。
あなたが「うざい」「きもい」といじめている人を、世界中のだれよりも愛している人がいる。もちろんあなたにもいる。独り椅子に座って、想像してみてください。仔猫の笑顔に花が咲く。夏雲の広がる草原を歩く家族が兄弟がいる。青い風が吹く。さまざまな出会いが始まり、それぞれの存在を認める社会が広がる。
現在いじめられている、あなたにもこの祈りが届くように願っています。人間は一人では生きていけません。だれかが作った道具を使い、食べ物をたべ、だれかが作った音楽を聴いたりして生きています。あなたはあなたとしてそこに居ることに意義があるのです。あきらめないで、怖れないで。
(評・福島県スクールカウンセラー 立花 正人)
(月刊MORGENarchive2018)