『ファング一家の奇想天外な謎めいた生活』

ケヴィン・ウィルソン/著 西田佳子/訳
西村書店/刊
本体1,500円(税別)

親もまた一人の人間であることの理解を

 大抵の人にとって「親」というのは一番身近な大人であり、その存在はとても大きい。この作品には、そんな子どもにとっての親、そして親にとっての子ども、互いの存在の絶対性や家族と個人の境界を強く考えさせられた。

 主人公であるアニーとバスターもまた親の存在に大きく影響されて育った子どもだ。両親は、群衆の中で混乱を起こし人々の度肝を抜く「アート」を行うパフォーマンスアーティストで、人をボウガンで撃ったり万引きでわざと捕まって泣きわめいたりと過激な行動も多い。幼い頃から「子どもA」「子どもB」として行動を共にさせられてきた二人は、「アート」のためなら人を傷つけても構わないという両親を理解できず、次第に距離を置き始める。そして成人し、独立して女優と作家になった二人がふとしたきっかけから久しぶりに一家で集まった矢先、両親が失踪してしまう。これはちまたを騒がせる連続殺人犯による誘拐事件なのか、それとも大がかりな新作「アート」なのか。

「アート」にとらわれず生きていきたいと願う一方で、両親の鼻を明かしてやろうと躍起になることが実はいつまでも両親に振り回されているのではないかと葛藤する姿、押しつけられた人生から一歩踏み出そうともがく姿には多くの人が共感し、勇気を与えられるはずだ。親もまた一人の人間であることを自覚し、その存在を大きく考えすぎてはいないか、一度冷静になってみることが子どもには必要なのかもしれない。

(評・共立女子高等学校一年 野崎 明生)

(月刊MORGENarchive2018)

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