『95』
早見和真/著
KADOKAWA/刊
本体1,600円(税別)
過去を振り返らず「今を楽しめ」
小説『95』は、1995年の渋谷を舞台にした青春小説である。
地下鉄サリン事件をきっかけに世界がただ事ではなくなったその日、Qこと秋久は同級生の四人組に仲間入りをする。Qたち五人の高校生は渋谷を駆け巡り、酒、煙草、喧嘩、女に溺れつつも、念頭には「友情」がしかと置かれている。「仲間の誰かがやられたらみんなでやりかえす」。それが、彼らの青春のあり方であった。
一口に言うならば彼らは不良であるのだが、だからこその熱苦しい友情がそこに存在している。
芽生える恋心や、虚無感、焦燥感、猜疑心――。本作には、我々一般人の経験しえない青春が描かれている。はあ、こういった青春もあるのかと、私は何度も舌を巻いた。
彼らは作中幾度となく「今を楽しめ」と口にする。本作は2015年の今から回想形式で進行していくが、現在すっかり親父になってしまったQや仲間たちは、渋谷に沸かされた95年の自らの後姿を追いながら、それでも「今を楽しむ」ことが出来ているのか、本作を読むことで、それはきっと確かめられる。
読む人によっては、著者は不良を美化していると思うかもしれない。だが人の感受性は多種多様だからこそ面白い。良いか悪いかだけでは割り切れない人間の機微に触れながら、自身では決して経験することの出来ない不良たちの青春を疑似体験することが出来る作品であると思う。
彼らの言う「今を楽しめ」。刹那的だが、その言葉の真意は、必ずや本作で味わえることだろう。
(評・学校法人明星学園 浦和学院高等学校3年 福本悠斗)
(月刊MORGENarchive2015)