『わたしが子どものころ戦争があった 児童文学者が語る現代史』
野上 暁/著
理論社/刊
本体1,450円(税別)
時代の大きな流れのなか国や大人に振り回され
戦後、70年です。新聞、雑誌、テレビ・・・色々なところで特集されていますが、この本も、その節目に併せて編纂されたもののようです。
8人の著名な児童文学者が、当時体験した戦争を語る。当時、彼等は子どもであり、時代の大きな流れのなか、わけもわからず、国や大人に振り回された実際の体験者です。語り部の一人である、あまんきみこさんや森山京さんは、満州や奉天などで幼少期を過ごし、「外地」(海外に領有していた植民地)で戦争を体験しました。多くの人は終戦後「内地」(本国)に戻ったようですが、海外と国内での温度差は、色眼鏡のない子どもの見た率直なもので、かえって不気味なリアルさを感じさせます。『はだしのゲン』でもそうですが、実際に巻き込まれた多くの子どもはただ翻弄され、異様で不吉なその空気だけ、ひしひしと体感して生きてきたのだと実感させます。
アメリカ軍基地のある岩国に今も住んでいる岩瀬さんは、「子どものころに戦争があったという過去の話ではなく、いまでも日常と地続きのところに戦争があるのです」と述べています。確かに、日本には米軍基地がいくつもあり、そこから実際、ベトナム戦争などへ兵隊が送り込まれていたわけです。そうした見える事柄でなくとも、アメリカが行う様々な戦争に、違う方法で協力していることに変わりはありません。そうした周知の事実を昨今の流れと共に考えたとき、思いを馳せずにはいられません。私たちはこれからどのように暮らし、世間はどのように変わるのでしょうか。一層戦争と近くなったこの場所でこの体験記を読んで、未来を予習することにならないよう祈るばかりです。
(評・奈良育英中学校・高等学校学校司書 村上 裕子)
(月刊MORGENarchive2015)