『マーク・トウェイン ショートセレクション 百万ポンド紙幣』

マーク・トウェイン/作 堀川 志野舞/訳 ヨシタケ シンスケ/絵
理論社/刊
本体1,300円(税別)

物語から抜け出すことのできないおもしろさ

 短編集は濃い世界観を楽しむことができない。このように考えたことはないだろうか。私はそう信じていたため、すぐに読み終わるだろうと思っていたが、話を読み終えても考えたり、想像したり、次の話を読み始められず、物語の世界から抜け出すことができなかったのだ。私は間違っていた。

 本書には七作品が入っている。ワトソン・ミレーが売れるまでの話「彼は生きているのか、それとも死んだのか?」。何ヶ月かすると乗り物を変えて三十年間もテネシーに向かう「ジャズビーホテルに宿泊した男」。黒人の召使いの半生の話「実話 一言一句、聞いたとおりに再現したもの」。嘘をついたことがない姉妹が人の弱さを知り、家族のために罪を自覚しながら嘘を突き通す「天国だったか?地獄だったか?」。友人の遺体の匂いとチーズの匂いを間違えた上に想像力によって自らを蝕んでしまう「病人の話」。何にでも賭けてしまう男の話を手紙として書いた「ジム・スマイリーと飛び跳ねるカエル」。運命に人生を変えさせられ、さらに自分でも変えた男の話「百万ポンド紙幣」。

 全ての話が笑えるわけではないが、必ずユーモアが盛り込まれていて、どこか明るかったり温かかったりする。ハッピーエンドではない話もある。しかし実際は、話の最後がその人の最後とは限らない。切り取る部分によって、結果は変わる。人生は平坦な道ではない。著者もそうだった。今が良かろうと悪かろうと、ユーモアを忘れてはならない。自分の物語のハッピーな部分がより多くなるように。

(評・品川女子学院高等部1年 中飯 日菜(なかいかな)

(月刊MORGENarchive2018)

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