『世界はなぜ争うのか 国家・宗教・民族と倫理をめぐって』

福田 康夫・H. シュミット・M. フレーザー他/著) J. ローゼン/編 渥美 桂子/訳
朝倉書店/刊
本体1,850円(税別)

各国の元指導者たちが豊富な経験と英知で未来に提言

 著者の一人福田康夫氏は、二〇〇七年九月から翌〇八年九月までの一年間、首相を務めた人です。七月の参院選で敗北し、九月の施政方針演説の直後、突如病気を理由に辞任した安倍晋三氏の後を受けて第91代首相に就いたのでした。父は、福田赳夫氏、第67代首相(76年12月~78年12月)です。その父が83年に創設した「インターアクション・カウンシル」(OBサミット)を引き継いで、康夫氏らが一四年三月に開いたOBサミット・ウィーン会議の論議をまとめたものがこの本です。

 OBサミットとは、各国の元指導者たちが、その豊富な経験に基づく英知を、人類全体の未来のために提供しようとする試みです。このウィーン会議には、11人の各国元首相・元大統領の他、15人の宗教者、宗教学者らが参加し、六つのテーマをめぐって問題提起と活発な議論が交わされています。

 その発言者たちは、福田氏がそうであるように、それぞれが異なる文化や政治体制、あるいは個人史を背負っており、読み手は、それぞれの発言者の背景となっているものを想像しながら読み進むことになります。また、ここで発せられている言葉についても同様です。その人がどういう文脈の中でどういう意味でその言葉を発しているのかを、翻訳されたものから想像力を駆使して考えていくことになります。これらは決して楽な作業ではありません。しかし、この大変さこそが実は、このOBサミットの英知を私たちのものとすると共に、さらには国家や宗教、民族の違いを超えて人類の課題を共有し、解決していくために欠くことのできないものなのではないかと考えます。

(東京・城北中学・高校国語科教員 東谷 篤)

(月刊MORGENarchive2016)

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