『今こそ問われる市民意識─わたしに何ができるか』
伊藤 千尋/著
女子パウロ会/刊
本体1,400円(税別)
一人ひとりが少しずつ世界を変えていける
「世界は一人ひとりが必要です。一人の行動が必要です。私たち一人ひとりが少しずつ世界を変えていけば、世界は変えられます。人生で向かう場所は戦争ではありません。あなたは生きていなくてはならない、と語りかけましょう。」これは、一九四九年、中米コスタリカに軍隊を持たない平和憲法を制定した際の功労者、故フィゲーレス大統領夫人カレンさんの言葉です。
著者の伊藤千尋さんは、新聞記者として四〇年間にわたり世界七四か国を取材してきました。出会った人は、一国の要人から町の靴磨きの少年まで様々です。
伊藤さんは「誠実に、懸命に生きる人々に各地で出会った。人間も地球も捨てたものではない。」と言います。本書を読むと、世界中を旅して多くの人に出会ったかのような気持ちにもなります。
伊藤さんの触れるテーマは、東欧革命、世界の住民運動や住民投票、沖縄の基地移設問題、ベトナム戦争の後遺症、ハイチへの教育援助の必要性、ペルーやベネズエラのスラムにおける自立と民主主義、チリ市民の軍政への抵抗運動、東日本大震災と原発問題など多岐にわたっています。その体験から綴られた言葉の一つ一つに説得力があり、感動が湧き上がってきます。
伊藤さんは時折、中学や高校で講演をするそうです。すると、質問が殺到し、感想も紙に埋め尽くされていて「今の子は無気力だなんてウソだ。」と感じるのです。
中米コスタリカの教師が語った「教育の目標は、自分の頭で考えて行動する、自立した人間を育てること」という言葉は世界に通用する普遍的な価値観であると心に響いています。
(評・明治学院学院長 小暮 修也)
(月刊MORGENarchive2016)