『未来をはじめる「人と一緒にいること」の政治学』
宇野 重規/著
東京大学出版会/刊
本体1,600円(税別)
社会をよりよくするためにはどうしたらいいか考えた
クラスの文化祭の出し物を決めるときでも、選挙で投票をするときでも一般的に多数決という方法が用いられる。一人の独裁者ではなく全員で結果を出すという点で一見民主主義を象徴しているように思えるが、実際には多くの欠陥があるというのが筆者の主張だ。
では民主主義においてどのような議決方法が好ましいのであろうか。第4講ではボルダ・ルールという決め方が紹介されている。これは三人の候補者がいる場合、一位には三点、二位には二点、三位には一点をつけるというものである。候補者が三人以上いる場合、力の弱い者が漁夫の利を得ることを避けられるのが特徴だ。面倒に思えるかもしれないが、パソコンが普及した現代ではなんともない作業だ。米大統領選の際、クリントン氏にどうしても賛同できなかった人が仕方なくトランプ氏に投票したり、どちらにも反対の人が投票を放棄したりするということがあった。これでは民意が表された投票結果とは言えず、投票の目的が達成されたことにはならない。
そもそも複数の選択肢から一つに絞ることは難しい。そこに着目した「文人民主主義」という考えに基づいた選挙制度では、各候補の長所を踏まえ、「Aは環境問題に特化しているから5分の4を、残りは経済面に強いBに投票する。」といった具合に決める。
このように様々な有効的な議決方法がすでに存在するのに現状を変えようとしない人間の怠惰さに気づかされる。また、「人と一緒にいる」ことで成り立つ社会をよりよくするためにはどうしたらよいのかを考えさせられる一冊である。
(評・明治学院東村山高等学校三年 福元 帆夏)
(月刊MORGENarchive2018)