「わたしのマンスリー日記」 第5回 京都「大人の修学旅行」――4月17日の奇跡

京都の魅力

 この5月『重ね地図でたどる京都1000年の歴史散歩』(宝島社)という本を出しました。私は監修しただけですが宝島社のスタッフのご尽力のおかげで素晴らしい本に仕上がりました。監修者の私が言うのは僭越ですが、これまでの常識を超えた画期的出来栄えで京都の歴史散策本の決定版と言っていいでしょう。
 私は「まえがき」に「京都の歴史を追体験する大人の修学旅行に出かけよう」という一文を書きました。まずは文章の一部を抜粋しておきましょう。
 「京都は日本の歴史をひもとく索引の街だと書いたことがある。一つ一つの神社仏閣地名などからあらゆる日本史上の情報を得ることができる。これができるのが京都の魅力であり、特色である」
 「一方では仏教など文化面でも大きな発展を遂げてきた。京都にはその痕跡がまるで狭い街のあちこちにダイヤのようにちりばめられている。現代に生きる私たちはそれらのダイヤから様々な情報を自由に引き出すことができる」
 「本書の企画の出発点は、『重ね地図で読み解く』という手法を取り入れようとしたことである。古地図の上に現代の地図を重ね合わせることによって、『過去』と『現代』の地点(ポイント)を一致させ、そこから時代の変遷を捉えることができるという趣向である。この二枚の地図の間にどのようなドラマがあったのかを推測するのが楽しい」
 京都は歴史の宝庫であり、それゆえに中高生の修学旅行の対象になることが多いのですが、しかし京都の奥深い歴史に迫るのは容易ではありません。特に仏教思想の理解になると引率する先生方ですら十文とは言えないでしょう。本書はそんな大人向けに書かれたものですが、中高生にも十分活用できる構成になっています。

「大人の修学旅行」

 私は最後にこう書きました。
「つい最近のことだが、高校の同級会の一環として『大人の修学旅行』と称して京都を歩く試みをした。中学生や高校生レベルでは京都の魅力、とりわけ仏教思想の理解は難しい。やはりある程度年をとってから歩いて初めて京都の魅力に触れることができるというもの。
 そんな読者のあなたに本書を片手に京都の街を散歩いただけたら、この上の喜びはない」
 私たちの母校(長野県松本深志高校)には修学旅行という制度がそもそもありませんでした。聞くところによると、戦後間もなくの頃貧しくて修学旅行に行けない生徒のことを慮(おもんばか)ってのことだとのこと。同じ理屈で弁当を持って来られない生徒のことを考慮してお昼はどこで食べてもいいことになっていました。母校の伝統は「自治」と「自由」でしたから、そんな精神が後押ししていたのかもしれません。
 本書出版の趣旨は確かに「大人の修学旅行」に供することでした。でもそれは中高生が読むことを拒むものではもちろんありません。いやむしろ中高生にこそ手に取って読んでほしいと願っています。かなりオーバーに言えば本書には京都のすべてが詰まっています。少なくとも修学旅行に求められる範囲の情報はすべてそろっています。しかも「重ね地図でたどる」というこれまでにない手法でわかりやすく解説した本はこれが初めてです。
中高生の京都修学旅行に役立たないわけがない――次第にそう確信するようになりました。そしてその可能性の扉は思いがけないところから開かれました。4月17日の奇跡です!

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