『ヒトは「いじめ」をやめられない』
中野 信子/著
小学館/刊
定価780円(税別)
古今東西、あらゆる場所や組織内で存在
「いじめ」という名詞が一般化したのはいつ頃だろう。私が小学生の頃に聞いた記憶はないので、おそらくこの30年ほどだと思うのだが、いじめ自体は古今東西、あらゆる場所や組織内で存在したはずである。それが特に学校における「いじめ」がクローズアップされるようになったのはなぜだろうか。
子どもたちが急に攻撃的になってしまったとは思えない。むしろ反抗期を迎えずに卒業する生徒が増えたように感じる。おそらく、昔より家庭も学校も子どもの自由を認める傾向があるため、反抗する必然性がなくなったのだろう。もし攻撃性の原因が抑圧ならば、むしろ「いじめ」も少なくなるはずなのに…などと考えていたのだが、本書に出会って納得することが多かった。
本書は、脳科学の観点からいじめについて考察し、実験事例を交えつつ、「人間という生物種が、生存率を高めるために、進化の過程で身につけた「機能」なのではないか」という結論をもとにして防止・抑止策を提案している。共同体を守るために分泌される脳内物質が、いじめを引き起こしているとする説は説得力があり、「規範意識が強い集団ほどいじめが起こりやすい」「性ホルモンの影響で小学校高学年から中学二年生に過激化する」「類似性と獲得可能性が高い人間関係から妬みは生まれる」などは、学校が舞台となりやすい原因として首肯できる。
実は防止策の中には教員の立場からすると、すぐに実行は難しいかなと感じるものも含まれているのだが、その点を差し引いても、学校全体で共有すべき、示唆に富む良書である。
(共立女子中学高等学校国語科 金井 圭太郎)
(月刊MORGENarchive2017)