『夜明けを待つ』
佐々 涼子/著
集英社インターナショナル/刊
本体1,800円(税別)
夜明けは希望を連れてくると信じて
待つとは、希望を持ち続けること。それは同時に勇敢な賭けでもあり、ひたむきに生きる命の、ありのままの姿である。
ノンフィクション作家の佐々涼子氏が初のエッセイ&ルポルタージュ作品集を刊行した。ここ10年来書き溜めた中から、エッセイ33本とルポルタージュ9本を厳選し、時系列に仕立てたものだ。著者の年輪ともいえる1冊である。
エッセイの章では「生と死」を軸に、女性とからだ、母として娘として自身を見つめる日常、取材を通じて出会った人との縁などが綴られている。著者と同世代の私は共感するところが多く、もどかしくて懐かしい心地で読み進めた。
ルポルタージュの章では、外国人技能実習生が受ける非情ともいえる現実が描かれる。日本語教師の経験を持つ著者だからこそ、日本語教育の行く末を案じ、問題視するのだ。続いて、日系人や外国人家庭の子どもたちが日本という国で生き抜くために、彼らの日本語教育を支える女性陣の奮闘と葛藤が伝えられる。アイデンティティの獲得がいかに大切かを説き、生きていくための技能を授けるべく闘っている人がいることを、私たちはもっと知らなければならない。
何を書くかは何を捨てるかだ。その場に居合わせた者だけが共有する空気、そこで交わされ溢れかえる言葉群と感情の波。逡巡することはないのだろうか。ノンフィクション作家である責任感と使命感を想い、胸が熱くなる。
「出会う人はすべて一冊の本。表紙だけ見てもわからないが、開けてみると、それぞれがユニークな運命をたどっている。」と記した著者は、現在、悪性の脳腫瘍に罹患し闘病中であると聞いた。ショックだった。筆舌に尽くしがたい時間を重ねてこられたであろう。けれども、あとがきは愛と感謝に溢れ「ああ楽しかった」と結んである。
誠実で、読み手に溶け込む文体が魅力の、佐々涼子氏の作品集。ひとりでも多くの人に、手に取ってもらいたい。
本のカバー写真には、朝日に照らされた雲間から光の帯が2本突き出しているのが見える。別名を天使の梯子という。このカバーを外せば、夜明け前の美しい瑠璃色の本体があらわれるのだ。
ノンフィクションの名手とともに、夜明けを待とう。夜明けは希望を連れてくると信じている。
(評・広島工業大学高等学校司書 湯田 麻里)
(モルゲンWEB2022)