「わたしのマンスリー日記」第15回 130パーセントのコンサート
今日投稿したFacebookに次のように書きました。
「3.11チャリティー・コンサートにバケツ隊の一員として参加したのですが、そこでお会いした女優の生の! 藤真利子さんから本が送られてきました。『ママを殺した』(幻冬舎)。書名もすごいが内容もすごい! 大好きなママを看取るまでの11年にわたる介護の激闘ドラマですが、私にとっては他人事でなく一気に読み終えました。生命の尊厳を考えさせられた一書。今書いている『それでも人はなぜ生きる!? 生かせ いのち』でも紹介します」
私が身につまされて拝読したのは、直面した状況の少なくとも3分の1は私自身体験しているからです。ああこんなこともあったな、この先こんなことも起こるだろうなと思いを巡らせて読んでいるうちに読み終わっていました。読み始めからクライマックスまで一気に読ませる力はすごいです。最後の次のフレーズが印象に残りました。
私は、子育てをした事がないが、子育ては、大きな目標に向かって進むのだろう。ところが、介護の目標は何か。それは死だ。子供のように育つものでないのなら、ママを良くしようと頑張らなければよかったのだ。現状維持に、むしろ精力を注ぐべきだったか。
「介護の目標は死だ」というのは残酷に響きますが、私たちが受け入れざるを得ない現実でもあります。私はこの1月エンジン01in市原に参加してコロナに罹患し、死ぬような苦しい体験をしました。病院のベッドの上で、どうしたら幸福に死ぬことができるかをずっと考えていました。そのことは目下執筆中の本で書く予定です。
高校時代に聞いたというシスターの言葉もすごく示唆に富んでいます。
「大学受験の為に、高校を休む。高校受験の為に中学を休む。中学受験の為に小学校を休む。小学校受験の為に幼稚園を休む。だったら、死ぬ為に、生きるのをやめた方がいい」
大学受験を控えた高校生に向かって言った言葉だとのことですが、深く考えさせられる言葉です。人生も歴史も今、今、今の連続です。ALSを発症して6年の歳月が流れました。目標は「生き切る」ことです。そのためには、直面している「今」を生き抜くしかありません。3.11チャリティー・コンサートを機縁に藤真利子さんにお会いできたことに感謝いたします。来年の3.11に再会することは確約しましたが、それ以上に交流させてください。2年前に出した『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(東京書籍、2022年)を送らせていただきます。今執筆中の『それでも人はなぜ生きる!? 生かせ いのち』はその続編で、林真理子さんに帯を書いてもらうことになっています。もう一つT2通信という会報を寄贈させていただきます。気が向いたら読んでください。筑波大学退職後にT2倶楽部という組織を作り、その会報として毎奇数月に発行してきました。この3月で70号になりました。
素敵なお手紙ありがとうございました。ベッドの前のパソコンの隣に飾っています。
2024年4月5日 谷川彰英
谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(いずれも東京書籍刊)がある。
(モルゲンWEB2024)