「わたしのマンスリー日記」 第1回  “Do for Others”

Do for Others

 この言葉は陶山先生とのやり取りの中で初めて知りました。これはキリスト教の「黄金律」(The Golden Rule)で、明治学院の校訓にもなっているそうです。その詳しい意味は後にして、私がなぜこの言葉に惹かれたのかお話ししましょう。私は幼少の頃からわんぱく坊主で人一倍負けん気の強い少年でした。良く言えば強い「意志」(will)持った人間ということでしょうが、裏返せば自分の思う通りにならないと気が済まない「お山の大将」的存在で、小さい頃から「アキちゃんはきかん子だ」と言われてきました。しかし、強引な「昭和の男」と揶揄されながらも、やらざるを得ないことも含めてやれることを思う存分やってきたという自負はあります。

 著書もたくさん出しましたし、世のため・人のためという思いで副学長、各種学会の会長、政府の委員等々数え切れない役職をこなしてきました。しかし今にして思えば、それらはいずれも「自分のため」(for me)の域を出ていなかったように思います。『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』を書きながら一入(ひとしお)その思いを強くしました。これからは自分のためにではなく、他人(ひと)のために(for others)生きよう。そう思うようになりました。そう思わせるきっかけとなったのは皮肉にもALSの罹患でした。ALSという難病に罹らなかったら私は変われなかったと思います。4年前の3月23日私は一度死んだーーそして生まれ変わったのだと思います。その奇跡を生んでくれたのは判田小学校6年生、山梨英和中学校2年生との出会い、そして小暮修也先生・陶山義雄先生をはじめ全国から届けられたくさんの応援メッセージでした。本当に本当に、ありがとうございました。

ペスタロッチの墓碑銘

 予定されていた文字数を大幅に超えてしまっていますが、初回ということでお許しください。私たち教育学者にとってはスイスの生んだ偉大な教育家J.H.ペスタロッチ(1746~1827)は近代教育の始祖としてバイブル的存在ですが、彼は終生孤児や貧しい子どもたちの教育に当たりました。もちろん彼は敬虔なクリスチャンでした。ペスタロッチの墓碑銘は次のようなものです。

“Allles für Andere, für sich Nichts” 

 これは私たち教育学者にはよく知られたフレーズで「アッレス フューア アンデレ、フューア ジッヒ ニヒツ」と読みます。有名な言葉で通常はドイツ語のままで伝えられていますが、私は昔からこのフレーズを日本語に訳すとしたらどうなるかとひそかに考えていました。「すべては他人(ひと)のために、自分には何も求めず」とも訳されますが、いかにも長くリズム感がない。私はこう考えました。

「すべては自分のためにではなく他人(ひと)ために」

 この方がすっと入ってくると思いませんか。英語に訳すとこうなります。

All for others, Nothing for me

 実は『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』を書き上げた時の心境は、まさにAlles für Andere. für sich Nichtsそのものでした。学生時代暗いゼミ室でペスタロッチの記した一文字一文字に込められた思いをたどったことを思い出します。

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