「わたしのマンスリー日記」 第1回  “Do for Others”

宗教って何?

 そんな思いでいた時に陶山先生からキリスト教の黄金律であるDo for Othersという言葉を教えられ、改めて宗教って何だろうと考えさせられました。私は冒頭で述べたように仏門に育ちながら専門が違うことをいいことにして仏教について何も学んできませんでした。「門前の小僧習わぬ経を読む」程度の話で恥ずかしい限りです。でも高校卒業までの18年間で宗教について「体得」したことがあります。それは一言でいえば「苦しんでいる人を受け入れること」です。これは書物を読んで学んだことではなく、父や母の生き方をずっと見てきて思ったことです。この考えは骨の髄まで浸み込んでいますが、これって宗教というものの本質ではないでしょうか。

 陶山先生によれば、Do for Othersの本質は欽定訳聖書の

Whatever you want men to do to you, do also to them.

 によるとのことですが、これは門外漢の私でも耳にしたことがあります。そのまま訳せば「あなたがたが自分にやってほしいことは何でも他の人たちにしてあげなさい」ということになるのでしょうが、これも深いですね。ただ私の置かれている現況ではこれを実行することは困難です。やってあげられることは限られているのです。何でもというわけにはいきません。今の私にできること、それは闘病の苦しさに耐えて自分のためにではなく「他人(ひと)のために」(for others, für Andere)本を書き続けることです。そんな生き方について牧師さんとしての陶山先生ならどう説教なさるのか伺ってみたい思いです。

 最後に陶山先生によれば、Do for Othersという「黄金律」は世界の三大宗教のキリスト教、仏教、回教だけでなくユダヤ教、ヒンズー教、儒教、道教の7つの宗団が同じような教えを中心に据えているそうです。そうなんですね。ありがとうございました。今回は思わず力が入ってしまい長くなりましたが、次回以降は普通の「マンスリー日記」に戻ります。ご期待ください。Auf Wiedersehen!(アウフ ヴィーダーゼーエン)―ドイツ語で「さよなら」ですが、意味的には「また会いましょう!」「また会えるのを楽しみにしています!」といった気持ちを表しています。読者の皆さんにそう思っていただける連載を目指しますのでよろしくお願い致します。

谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(いずれも東京書籍刊)がある。

(モルゲンWEB2023)

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