「わたしのマンスリー日記」 第3回 「壁のないコンサート」
「音楽のチカラ」
そんな音楽経験しかない私にとってこのコンサートは大きな衝撃でした。クラシックからカンツォーネ、オペラなどの声楽、ピアノ・バイオリン・アコーディオンの演奏、さらに合唱団による歌唱、そして取りは坂本冬美さんと五木ひろしさんの熱唱でした。3時間に及んで次々に繰り広げられるアーティストたちのパフォーマンスに私は「圧倒」されっぱなしでした。それは単なる「感動」などといったレベルを超えて、全身に音楽の波が怒涛のように覆いかぶさってくる感覚でした。そうか、これが「音楽のチカラ」なのか! どうしたらあんな声量が出せるのだろう。ピアノやバイオリンやアコーディオンの演奏はどうだ! どうしたら神業のようなあんな演奏ができるのだろう。少年時代、一度もトロンボーンの音を出すこともなく壇上を去った私にはまさに衝撃以外の何物でもありませんでした。その歌唱や演奏に合わせるオーケストラの一糸乱れぬ演奏も見事! そして私はそれを操る指揮者の身のこなしにひそかに注目していました。メインの指揮者の大友直人さんはエンジン01文化戦略会議の会員でよく知った仲でしたが、ここまでの指揮の現場を見るのは初めてでした。大友さんのしなやかな手の動きを見ていると、全身から無理なく自然に「音楽のチカラ」が伝わってくるのがよくわかりました。
打ちのめされたプライド
私の職業は大学教員でしたので人前で話すことはプロのうちでしたし、それなりのプライドもありました。学生時代はドイツで通訳をしたこともありましたし、アメリカではUCLAなどで日本のマンガ・アニメや地名について講演したこともあります。筑波大学でも江崎玲於奈学長の発案で行った学生投票で人間学類(学部)のフレンドリーティーチャーに選ばれたこともあります。要するに人前で話すことにはいささかの自信と自負があったのですが、そんなものはコンサートを聴いて一気に吹き飛んでしまいました。アーティストの演奏から発せられるほとばしるようなエネルギーとパワーに比べれば、私の行ってきた講演など足元にも及ばない。まるで異次元の世界を見せつけられた思いでした。この違いはどこから生まれてくるのだろう。
「壁のないコンサート」
サントリーホール1階隅の車いす席でコンサートを聴きながら、私はその問いに答える言葉を探していました。でも見つかりませんでした。コンサートが終わった翌日、同行した知人の藤波亜由子さんからメールが入りました。そこにはこう書かれていました。
「利他の精神に溢れた素晴らしいコンサートでした」
素晴らしい表現力! 「利他の精神」という言葉で私の問いの答えが見えてきました。無言のままバケツの中に1万円札を入れてくれた来場者の顔を思い浮かべました。今思い起こすとバケツ隊に寄ってくださった皆さんの表情にはある共通点があったことに気づきました。それを言葉で表現することは難しいのですが、「震災から一日も早く立ち直って元気を取り戻してほしい」という思い・祈りともいうべきものでした。言い換えれば「利他の精神」です。