「わたしのマンスリー日記」 第4回 「栗山監督の二刀流魂—WBC栄冠獲得の秘密」

 私は社会科教育の研究者としてNHKの学校放送のテレビ番組作製に携わっていたこともあって社会科系の相談日には常連の講師となっていました。栗山さんと出会ったのはこの番組でした。
 この番組は90分の生テレビで全国から寄せられる700件ほどの質問をアルバイト学生50名ほどがまとめ、その中から12問ほどディレクターが選んでそのままオンエアするという仕組です。専門家だけでは回答に窮するかもしれないということでどの日も専門外の講師を迎えることになっていました。栗山さんはその要人として迎えられたのでした。
 質問はアナウンサーからの一言から始まります。
「もしもし今日は。住んでいる都道府県名と学年とお名前を教えてください」
 さすがにプロのアナウンサーは違う! 子どもたちの質問を回答者に上手に結び付けていく。
栗山選手についてはプロ野球選手という認識しかなかったですが、とにかく子どもたちとの対話がスムースで素晴らしい! とてもプロ野球選手の対応とは思えませんでした。何かあるな?
そこで失礼ながら番組終了後、なぜこんなに子どもとのやり取りがお上手なんですかと訊いてみると、自分は東京学芸大学の出身で教育実習で子どもたちとの接触の仕方を学んだと言っていました。
その一言で私の謎は一気に解けました。そうか、栗山選手は教育学部で教師になるための勉強をしていたんだ! 東京学芸大学には私も長く非常勤講師を務めたことがありますが、子ども好きで主に小学校の教員を目指す優秀な学生が集っていました。

二刀流魂

 それ以降、栗山監督の采配をテレビで見る度にこのことを思い出していました。栗山監督のすごさ・強さの秘密は「野球魂」の他にこの「教育者魂」があることです。とにかく選手の使い方がうまい! 得点が入るたびに選手たちは小学生のように歓喜してましたね。その時の栗山監督の表情は小学校の先生のようでした。
今回のWBC栄冠を勝ち取れたのは栗山監督の「野球魂」と「教育者魂」がうまくかみ合った二刀流によるものでした。
決勝戦の対アメリカ戦で3対2で勝つと予言したのはこのような思いがあったからです。少しは自慢できるかな?

谷川 彰英 たにかわ あきひで 1945年長野県松本市生まれ。作家。教育学者。筑波大学名誉教授。柳田国男研究で博士(教育学)の学位を取得。千葉大学助教授を経て筑波大学教授。国立大学の法人化に伴って筑波大学理事・副学長に就任。退職後は自由な地名作家として数多くの地名本を出版。2018年2月体調を崩し翌19年5月難病のALSと診断される。だが難病に負けじと執筆活動を継続。ALS宣告後の著作に『ALSを生きる いつでも夢を追いかけていた』(2020年)『日本列島 地名の謎を解く』(2021年)『夢はつながる できることは必ずある!-ALSに勝つ!』(いずれも東京書籍刊)がある。

(モルゲンWEB2023)

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