『日本列島地名の謎を解く』

谷川 彰英/著
東京書籍/刊
本体1,100円(税別)

地名探偵による「奇跡の一冊」 

 通勤・通学、あるいは旅に出た時に気になるのは地名である。私の郷里で気になったのは上信電鉄の「」である。本書はその不思議な地名を解明してくれた(一六頁)。

 著者は地名の謎を、ユニークな地名、動物の地名、伝説を伝える地名、古代史をたどる地名、都市名に隠された歴史などに分類して謎を解いていく。まさに「地名探偵」とも言うべき探求心である。その著者が一貫して重視してきたのは文献調査と現地調査である。現地の図書館で多様な資料によって土地の歴史を調べていく。また、カメラを下げて現地を歩き、踏査した者しかわからない情報に接近する。

 特に、歴史の深さと共に写真の美しい金華山(石巻市)、(神戸市)、巌流島(下関市)などは、本書を片手に訪ねてみたいと思わせてくれる場所である。頁の構成は一つの地名が三頁程に簡潔にまとめられ読みやすい。

 その文献調査と現地調査を精力的に行っていた著者であるが、突然、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病に襲われた。それ故に、雑誌と新聞の連載記事を基にした書籍化がストップし、「幻の一冊」になりそうであった。それが全身筋肉が動かなくなる中で出版社や周囲の手助けで発行できて「奇跡の一冊」となった。

 このような状況で著者は、どんな苦境に立たされても、「絶望さえしなければ夢はつながる!」「できることは必ずある!」、これが本書の隠れたメッセージであるという。絶望の中でも夢や希望を見出す著者の生き方に多くの読者が励まされるに違いない。

(評・明治学院学院長 小暮 修也)

(モルゲンWEB2022)

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