『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』
石井 光太/著
日本実業出版社/刊
本体1,700円(税別)
弱者へのしわ寄せが社会を劣化させる
「君が生きていく日本社会は、格差という地雷に埋めつくされている。・・・だが、日本のそれは、もはや格差という言葉では、表しきれないほど深刻になりつつある。それが分断だ」。これは本書の冒頭に書かれている一節である。一億総中流と言われた日本社会も、現在では「格差社会」という響きの方がよく耳にするようになった。そして「コロナ禍によって分断が顕著となり、感染拡大という形で社会に実害を与えることになった」と筆者は重ねて言う。
本書では格差の実態を、所得格差、職業格差、男女格差、家庭格差、国籍格差、福祉格差、世代格差とテーマごとに丁寧にかつ、リアルに描いている。例えば、コロナ禍で女性の自殺率が増加したことは、もともと社会に存在していた女性に不利な状況が根本にあることや、日本で増加する外国人ギャングの背景には、日本における外国人労働者の増加があり、そのような中、外国籍児童の15.8%が不就学であることなど、深く掘り下げて分析、説明されている。
全体を通して、筆者は「弱者へのしわ寄せが社会を劣化させる」と警鐘を鳴らしている。そして多くの社会問題の根っこの部分は「格差」でつながっているということを私たちに伝えているのである。
なお「このままで日本に未来はあるのか?」。この問いに対して、筆者は最後に私たちに3つのヒントを提供してくれている。このヒントを読み解くと、分断社会になりつつある現在を変えていくのは、実は自分自身の強い想いと社会の連帯であることに気づく。これらのメッセージは、中高生だけではなく、格差と分断に苦しむ大人にも読んでもらいたい一冊である。
(評・東京都立国際高等学校教諭 宮崎 三喜男)
(モルゲンWEB2022)