青い海と空のみちのく八戸から・波動はるかに 第4回 エミシの背中
暫くたたずんでいると、その樹木の隙間に、確かに背中を丸めて過行く人の姿を見たような気がした。私はエミシと呼ばれた人の背中を追いかけているのだ。足を速めるが一向に近づけずにいる。どんなに追いかけても前方には回れない。ただ人の丸まった背中を見るだけだ。呼び止めようと、焦って大声を出そうとした瞬間我に還る。
ところで、私の北の国への関心は70年近く前のことにもなる。NHKのラジオドラマに刺激されたのが最初といえる。調べてみると、それは原作石森延男「コタンの口笛」をラジオドラマにしたもので1958年6月~8月に毎日曜日夕、6時過ぎの30分、全14回の放送されたものであった。放送が始まると私はすぐに夢中になった。昭和30年代初めのころ、テレビの普及は始まったばかり、田舎の学校が蔵している図書はお寒いかぎり、唯一の娯楽でもあったラジオ放送はよく聞いた。北海道が舞台でアイヌの少年ユタカとその姉マサが主人公、あらすじなどは殆ど覚えてはいないが、ただアイヌ差別、偏見の問題と北国イメージの清涼な空気は伝わってきた。私は原作にたまらなく触れたくなって、学校の図書にするよう教師に依頼し、本が届いたら誰よりもいち早く読み切ったことを覚えている。その当時私の本・ラジオドラマへの関心は何より、ただ異世界の物語に向かっていただけのものである。アイヌ民族、差別などの事柄はまだ全く遠い問題にしか過ぎず、エミシという言葉も歴史教科書に登場してくる征夷大将軍坂上田村麻呂の一字“夷”にあったように思う。アイヌと夷の字を重ね合わせたことは全くなかったわけだ。