青い海と空のみちのく八戸から 波動はるかに 第1回「虹っ子」と蕗の薹            

 東日本大震災の年、カメルーンから横浜にやってきた留学生Mengnjoさんと交流が深まり、彼が本国の女性と結婚し男児誕生で私たちも大喜びしたが、彼に「HARUSHI」(夫の名前)と命名したことを聞き、生きているとこんなことが起きると驚き、夫も私も感激で涙が溢れた。アフリカ・カメルーンの地に孫のような命が生まれたことで、それまで未知で遥かなアフリカが我々の日々の生活を色濃くし始め、多言語の仲間たちに声をかけて、カメルーン×トーゴホームステイ交流の企画をつくり、2017年秋にカメルーンに出発した。

 その出逢いと物語から見つけたメッセージを込めて、『ハルくんの虹』の絵本が誕生した。作者は私だが、画は治史の長年の友人佐藤泰生氏が引き受けてくださり、カメルーンMengnjoさんや仲間が英語、ンズ語(カメルーン約250言語のひとつ)、フランス語で翻訳を担当し、4ヵ国語による芸術絵本が完成した。

 佐藤泰生氏は東京藝術大学大学院からフランス政府招聘でパリに留学、現在も国内外で油彩画壇を牽引する第一人者、絵本制作は初チャレンジだったが、色が踊り光が歌う唯一無二の一冊になった。

 治史は「この本は我々が産んだこどもだね。ボクは喜んでいます」と、絵本は我々の日常に息づいていた。ある日、「『ハルくんの虹』の原画を佐藤から我々にせてもらおう。ボクは君に何も残せないので、佐藤の『ハルくん』の画を君に贈りたい」と言い出した。我々の申し出は佐藤画伯にとどき、22年10月23日、逗子に原画を受け取りに行くことになった。私は「虹っ子」を授かるという気持ちを授かり、母になるような気持ちで逗子にむかった。絵本作成の日々、佐藤氏はいつも大先生だったが、その日は「虹っ子」を我々に託する創造主のように神々しく想われた。「虹っ子」を抱いて、我々は海に向かっていた。湘南の海に戯れる人々はコロナ禍でマスクに覆われていたが、南仏のような甘やかな海風が漂い、煌めく光に満ち満ちて、水平線の彼方に「何か」新しい未来が見えた。

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