「わたしのマンスリー日記」第19回「どんな難病でも私たちは諦めない!(その1)さかもと未明さんとの対談SP

【谷川】「静かな戦争」か……、うまいですね。さすがマンガ家さん! 発声できない私からすると「無言の戦争」かな。
 民子のご主人のことを「可哀相」と感じるのも、家族の苦難を乗り越えてきた未明さんらしいです。
【未明】最も印象的だったことの一つは、アイコンタクトで文字を起こしていく方法です。瞼の動きで読み取ると聞いてはいましたが、あんなふうに一文字ずつとは知らなくて。漫画も大変ですけど、想像を絶する忍耐力です。昔の人がお墓や石碑に手で文字を刻んだ以上に大変だと思いました。でも、だからこそ無意味なことは書けない、一文字一文字を無駄にしたくないですよね。だから谷川先生の本の言葉は、「伝わる」んだと思います。
【谷川】おっしゃる通り、Wアイクロストークは想像を絶する苦行です。「その本を取って」と口で言えば数秒で済むところ、Wアイクロストークでは数分かかることもあります。意思が通じない時はそれこそ涙が出るほど悲しいです。
 そんな苦しみを超えて本を出し続けることができたのは妻をはじめ、医療スタッフ・介護スタッフの皆さんのお陰です。有森裕子さんの言葉を借りれば「自分で自分をほめたい」と思うこともあります。そう思わないとやってられませんね。

「利他の心で生かされ生かす」

【谷川】ところで、本のタイトルに共感されたとのことですが……。
【未明】はい、タイトルにまず共感しました。「利他の心で生かされ生かす」という言葉です。「利他」なんていうと一見きれいごとのようですし、私も自分がそんなことを考えるとは若い頃は思いませんでした。普通に自分のために生きていましたし、自分の夢を叶えるのに必死で。自己実現の意味では全力で頑張っていました。だから「あなたは治らない病気を発症しました。しかもかなり悪くなるまで放っておいたので、投薬治療をしても余命は5年くらい。よくて寝たきり、最悪は命が尽きるので人生設計を立て直してください」と言われた時は、文字通り目の前が暗くなりました。
 しばらくは泣いて暮らしましたが、本当に体が動かなくなった時、「入院するより貯金をはたいて好きなホテルで暮らしたい」と、都内の庭の綺麗なホテルに移りました。そして美しい庭を眺め長い今までの人生を振りかえると、涙が止まらなくて。「今までの生き方が間違っていたのかな、辛くあたられた親やいじめられた友達を見返したくて、何とか有名になりたいと思ってきたことへの罰が当たったのかな。でも、こんな気持ちのままで最期を迎えるのは嫌だ」と思いました。

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