『いくらかな? 社会がみえるねだんのはなし1 自然と生きもののねだん』

藤田 千枝/編 新見 景子/著

大月書店/刊

定価2,160円(税込)

日常では考えたこともない値段に興味引く

 野生動物や家畜・実験動物など生きものの値段を並べ、はたまた島や水・樹木といった自然の値段を並べていく。日常では考えたこともないものの値段が興味を引き、短い解説もスッと読める。イラストとわかりやすいグラフや表で抵抗なく読み進められる。

 値踏みの根拠と説明で現在あるがままの動物や自然の実態を提示していく。現状をわかりやすいグラフや図で表していく。どれも客観的な事実で私的な意見はない。現状はこうなっているということを端的に提示していく。

 すべて事実としての現状をあげることにより、環境問題・経済問題ひいては産業問題を考える緒を与える。問題の原点を、生きものの値段という卑近な形で可視化させることで、自ら考え、自ら問題解決に思考を巡らせる仕組みがある。事実のみを伝え、思考の方向性を示さないから、自分で考えていかなければならない。

 内容はシンプルで、かわいいイラストも豊富で、子どもでもすぐ理解できる。一見小学生向けの著書かと思うが、データを元に思考を展開させれば、中高生のニーズにも応えられる。

 さらに偏って繁殖した動物による農産物の被害や、野生の生き物が農作に果たす役割も値段としてあげている。生態系のあり方や、多様な生態系の有効性も示唆している。

 値段という子どもでもわかりやすい価値を示すことから、何に配慮して生きるか、考える第一歩をつかめるだろう。まずは事実から、自らの進むべき方向を考えていける。

(評・中村史子校・高等学校司書教諭 岡田 富美子)

(月刊MORGENarchive2017

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