『文庫解説ワンダーランド』

斎藤 美奈子/著
岩波書店/刊
定価907円(税込)

解説が読む楽しみを増やしてくれる

 勤務校には毎月1冊以上の感想を400 字以内でまとめる「読書ノート」というものがある。中にはどう見ても「あとがき」や「解説」しか読んでいないとわかるものもあり、「〇〇についてはどう思いましたか?」などとちょっといじわるなコメントを書いたり、目に余る場合は呼び出して本の内容について質問したりすることもある。

 このように悪用されることもあるあとがきや解説だが、周りの本好きに聞いてみると、必要派と不要派に分かれる。私は必要派、しかも先に読む派だ。告片に関する豆知識や作品の時代背景など、読む前に知っていて損はない情報を得られる点は大きい。

 この本は、題名の通り文庫本の解説に焦点を絞った珍しい件品である。取り上げられているのは漱石や川端、シェイクスピアなどのいわゆる名作から赤川次郎、百田尚樹まで幅広い。もちろん対象作品が既読であればより楽しめるが、未読であっても充分楽しめるのが素晴らしい。むしろ、この本をきっかけに原典へ手を伸ばす人もいるだろう。歯切れの良い文章で、個人的体験や細部の表現にばかりこだわった解説にはたとえ有名評論家であろうと容赦ないのは痛快だ。また、同じ「坊っちゃん」であっても、各社によって解説が違い、様々な視点があることに気づかされた。今後は解説を読む楽しみがますます増えたのも嬉しい。

 それにしても、この本に書評を書くというのは勇気がいる。著者が指摘しているように、ちゃんと「著者のため」でもなく、「自分のため」でもない書評になっているだろうか。

(評・共立女子中学高等学校教諭 金井 圭太郎)

(月刊MORGENarchive2017)

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