『北海タイムス物語』

増田 俊也/著

新潮社/刊

定価1,836円

仕事って、働く意味って何だろう?

 平成二十九年五月ー八日付読売新聞には、サラリーマン川柳「電話口『何様ですか?』と聞く新人」のコラムや近々婚約される、秋篠宮紀子様の長女、眞子様の記事が紙面を賑わせていた。

 時は遡って、平成二年(一九九〇年)。入社式に急ぐために飛び乗ったタクシーのラジオからは、咋年秋に崩壊したベルリンの壁の続報が流れていた。そしてこの年は、川島紀子さんが秋篠宮妃になった年でもある。

 僕こと「野々村巡洋」 の就職先は、歴史ある北海道の新聞社「北海タイムス」。神奈川県生まれ、関東の有名大学出身の彼は司法試験を諦め、実は全国紙(読売・朝日・毎日)の新聞記者になりたい。給料は安い、人使いは荒い、複雑な人間関係が絡み合う、極寒の地方新聞社など、踏み台くらいにしか思っていなかったのだ。

「仕事ってのはな、恋愛と同じなんだ。お前が好きだって思えば向こうも好きだって言つてくれる…」 こんな先輩たちの言葉も僕の心には響かない。

 入社して三ケ月が経った。僕は、この会社に入って数ケ月で「なりたい自分」からどんどん離れていく……。しかし、貧乏だけど心から新聞を愛してやまない、超個性的な先輩や同僚に戸惑い苦戦しながらも、秋を迎える頃には会社や仲間たちが好きになっていった……。

 実在した新聞社が舞台とはいえこの物語はフィクションだ。しかし「仕事って何だろう?」「働く意味って何だ
ろう?」と各場面で考えさせられる。そして、いつの時代も仕事の本質に違いはない事に気付かせてくれる。

(評・千葉県立沼南高柳高等学校司書 遠藤 登美子)

(月刊MORGENarchive2017)

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