『若者の「社会学」』

若者が世界を見る視点 

 今、私たちの住む世界では、各地域での紛争や気候危機などさまざまな問題に直面しています。それらに私たちはどう向き合っていけばいいのか。それは、筆者を含むミレニアム世代、ゼット世代と呼ばれる10代、20代の若者にとって切実な課題である。 

 本書は「国際社会に生きる主権者」としての視点を示している。第1章では、今起きている戦争について取り上げている。第2章では全世界的課題である気候危機について章を設けている。そして第3章では「若者が未来を開く」として、特に東アジアを見る視点を示している。人口増加及び経済成長の著しい東アジア地域において、日本は、私たちはどう近隣諸国と付き合っていくのか。本書では筆者である西村美智子氏がこれまで行ってきた日韓共同授業の実践の中にそのヒントを見ることができる。日本と韓国が歩んできた近代史を学んだ上で、お互いを理解するためにはどうすればよいのか。両国の授業交流を通して学生が平和な未来を展望する教育実践の記録が掲載されている。 

 これまで著者の西村美智子氏は日韓共同授業の取り組みの中で、韓国の中学校で授業を行ったり、韓国の教師が日本の大学生と交流する機会を設けるなど、日韓両国の架け橋となってきた。成長著しいアジア地域に世界から注目が集まる中で、昨今、議論されているアジア版NATO構想や中国包囲網を主眼とする外交政策は真に東アジアの平和構築に寄与するのだろうか。本書を読み進めながら、西村実践に見られる「過去の歴史に向き合い、共に平和な未来をどう構築していくかを議論する」市民の運動こそ、平和な東アジアの構築に役立つと考えた。 

 グローバル時代と言われて久しいが、一方で、若者の貧困問題が広がり、外国に目を向けることが難しくなり、内向き志向にならざるおえないのも日本の若者が置かれている現実である。本書は若者こそ「世界を見なければならない」と気づかせてくれた一冊でもある。また、これからグローバル社会に生きる若者にとって、「どう国際社会に向き合っていくべきか」「自分はどう生きていくか」を示唆してくれる一冊である。 

(評・小学校教諭 榎本 寅吉 )

(モルゲンWEB20241209)

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