『幸せな劣等感アドラー心理学〈実践編〉』

向後 千春/著

小学館/刊

定価760円(税別)

自分を保つためには他人と比べないこと

 本屋の教育コーナー・心理学コーナーの書棚には幼児教育から自己啓発的なものまでアドラーの関連本が多く並んでいる。その中で「劣等感」と「幸せ」という、普通は相容れない言葉の表題にひかれ、 一気に読み、そして引き込まれた。

 誰もが日常的に自身の中にある優越感や劣等感に振り回される経験があるだろう。劣等感はつらい、と普通は思う。なぜ「幸せな劣等感」なのか? アドラー心理学の特徴のーつは、人が幸せに生きられる社会、戦争や紛争のない協力的な社会を目指していることだ。人が協力し合うためには、何が必要なのだろうかという問いが根本にある。人はより優れた自分を目標として、それに向かって行動していくが、その優れた自分と実際の未熟で劣った自分に劣等感を持ち、そこから努力を始めていく。しかし現代社会は、常に他の人と比較され、競争により自尊心は揺らいでいる。その中で自分を保つために必要なのは、自分を他人と比べないことである。誰もが劣等感を持つが、自分の未熟さと、でもクそこそこ良くやっているクという「不完全である勇気」を持つことが大事であると彼はいう。理想を基準とせず、まだ不完全な自分を受け入れることで他の人の不完全さも許せるようになる。ミスを許し合う社会にするには、不完全である自分を認める勇気を持ちたい。劣等感は、あなただけでなく、すべての人が抱く感情であり、努力と成長のためのバネとして働く。互いに不完全と認め合う社会に変えたいと、彼は願っている。アドラー心理学は、人生の岐路に立つ諸君の生きるエネルギーとなるに違いない。

(評・城西国際大学教授 東谷 仁)

(月刊MORGENarchive2017)

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