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ちば てつやさん(漫画家)

 漫画家・ちばてつやさんの18年ぶり(2018年当時)の新作『ひねもすのたり日記』第1集が発売された。 ビックコミック連載オールカラー1話4ページのショートコミックは、半世紀を過ぎるいまも脈々と読み継がれている『あしたのジョー』の著者のユーモア溢れる現生活風景、そして幼少期の満洲に始まるその半生の回想という時制を行き来しながら話が進んでいくというユニークな構成だ。ときに暖かく、ときに凶暴な時代の風に晒される幼年期を、包み込むようにはさみこむ現代の日常が心地よい。異国に始まる人生と漫画家への道――、そして連載に込める想いを聞いた。

漫画との出会いは

 それが実は私の家には漫画がなかったんですよ。多分、母は子どもに漫画を見せたくなかったんでしょうね。その代わりというのか、幼少期を過ごした中国の印刷工場の社宅は、もう壁という壁が本棚で、天井までびっしりと本が並んでいた。一番下は地袋になっていて、その少し上のちょうど4、5歳の私が伝い歩きで手が届くところに子どもの本があった。それを椅子を横に少しずつずらしながら、片端から読んでね。でも、絵本に童話、写真集、少年少女文学全集と子ども向けのものは沢山あるんだけど、とにかく漫画だけはなかったんです。だから日本に帰るまでは一切、漫画というものを見たことがなかった。

終戦後、中国の屋根裏で隠れ暮らして物語をかかれます。着想はどこから

 戦争が終わって日本軍が引き揚げた後、私たちは中国に取り残された状態でね。身動きもとれず息をひそめる生活のなかで、遊び盛りの弟たちの気が少しでも紛れればと絵物語を書き始めたんです。最初は自分の読んだ本の内容そのままを書いていたんだけど、それだと「その話もう聞いた!」「知ってる」と弟たちはすぐ飽きてしまう。そこで仕方なく自作の話を混ぜ始めたんだけど、それでも弟たちは「その話、どうせこうなるんでしょ?」とくる。そこから、どうしたら弟たちが目を輝かせるような話になるんだろうと工夫をはじめて。

絵に親しまれた背景は

 それはやっぱり父が印刷工場に勤務していたのが大きかったですね。「ヤレ紙」といって印刷の行程で出るいわゆるクズ紙があるんだけど、それの大きめのやつをいつも父は取っておいてくれてね。私はそれをリュックの底に大切にしまいこんで宝物にしていたんです。で、何に使うかといえば、その紙に裏も表も真っ黒になるくらい書き込みをする。ケシゴムがあるときは消してまた書く。結構、紙質もよかったのでね。その紙に絵物語を描いて弟たちに見せていたわけです。

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