ちば てつやさん(漫画家)
展覧会は中国でも
そうです。しかも一番最初が南京だったんですよ。「南京は嫌だ。行かない」と言ったんだけども、「ちばさんダメだ。何枚も書いてるんだ責任がある」とか言われて連れてかれて(笑い)。終戦直後の暴動の記憶が頭にあるから、石でもぶつけられるんじゃないか、とも思うし、しかも会場は南京博物館に隣接するホールというから戦々恐々でね。でも蓋を開けると、毎日、もうほんとに大盛況ですよ。というのも向こうの若者は日本の漫画が大好きでね。サイン会もやったもんだからそれでワーッと来たんだけど、会のテーマなんか何も知らずに来てる。それが、絵を見て「日本人もお腹が空いてたのか」と聞く。今度は〈8月15日〉の絵を見て「日本も爆撃を受けたのは本当か」「戦争で死んだ人がいたのか」と驚く。みんな知らないんですよ。そういうことを伝えられたという意味ではやってよかったなと思いますね。
本に込めたメッセージは
よく、いまの若い人たちは自信がない、というようなことを聞くけど、いまはどんな仕事に就いていても飢え死にすることはないじゃないですか。それなのに、毎日燻ったような生き方をしている人が多いと聞くと、「そんなことないよ」と言いたくなる。私なんか、ほんと何やらしてもダメだったんですよ。これは謙遜とかじゃなくてね。帰国後、両親が倒れた家を支えようとアルバイトをするんだけど、とにかくすぐクビになる。なにをしてもダメ。要領が悪かったんだろうね。でもそういう何をやらしてもダメな子でも、なにか自分の好きなことを頑張れば、なんとか人の役に立つこともできる。だから、人の喜んでくれるものを見つければいいんだよ、そんな気持ちを込めながら日々画稿に向かっているんですよ。
ちば てつや 1939年、東京生まれ。幼少期を旧満州・奉天で過ごす。56年、貸本漫画でデビュー。「ちかいの魔球」「ハリスの旋風」「あしたのジョー」「のたり松太郎」等のヒット作を数多く世に送り出す。最新刊は『ひねもすのたり日記(第1集)』。講談社児童まんが賞、小学館漫画賞、紫綬褒章、旭日小綬章など受賞歴多数。文星芸術大学マンガ専攻教授。日本漫画家協会理事長。
撮影:編集部
(月刊MORGENarchive2018)